今回は、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency:IAEA)が2023年に発行した、「放射性物質輸送の放射線防護プログラム(Radiation Protection Programmes for the Transport of Radioactive Material)」をご紹介します。この文書は、IAEAの安全基準<Safety Standards>の一つである「特定分野の安全ガイド(Specific Safety Guide)No. SSG-86」として発行されたものです。
IAEAは、原子力や放射線医学等の核技術の平和的利用を促進し、軍事利用を防ぐことを目的とする国際連合の自治機関です。IAEAでは、安全規則に適合させるため、利用施設での被ばくを最小限に抑えて管理する放射線防護プログラム<Radiation Protection Programme:RPP>を策定しています。さらに、このRPPを適切に運用するため、リスクに応じて安全対策の厳格さを調整する「Graded Approach(等級別扱い)」の考え方が導入されています。今回ご紹介する文書は、これらに基づき、安全な輸送を行うための推奨事項や指針をまとめたものです。
- この文書の適用範囲は、陸上・海上・航空輸送のすべてに及びます。放射性医薬品<radiopharmaceuticals>に限らず、天然に存在する放射性物質、学術・産業・医療用途で使用される放射線源、核燃料、放射性廃棄物等、あらゆる種類の放射性物質を対象としています。
文書には、以下の項目が含まれています。 - ・放射線防護の原則、および輸送条件・被ばく条件に応じた防護レベルの決定
- ・許認可当局、荷送人、運送者、荷受人等の役割と責任
- ・線量評価と防護の最適化
- ・表面汚染の管理、隔離等の防護措置
- ・緊急時対応
- ・品質管理システム(教育訓練、文書化、見直し等)
- 放射性医薬品の輸送については、付属文書「Annex II:医療用放射性同位元素輸送のための放射線防護計画の例(Example of a Radiation Protection Programme for the Transport of Medical Radioisotopes)」に、以下のような記述があります。
- ・放射性医薬品の輸送は比較的低リスクだが、頻繁に行われるため、RPPに基づく適切な防護措置が求められる。
- ・従事者の線量は、線量測定バッジや作業時間等で管理する。
- ・容器や包材について、表面汚染等の定期的な検査を実施する。
- ・(半減期の短い)放射性医薬品は輸送時間が限られているため、その間に遮へい等で安全性を確保する。
- ・教育訓練、文書化、見直し等を含む品質管理システムを構築する。
今回ご紹介した文書は、放射性物質の規制要件を定めたIAEAの「放射性物質の安全な輸送に関する規則(Regulations for the Safe Transport of Radioactive Material - 2018 Edition Specific Safety Requirements No. SSR-6 <Rev. 1>)」に基づいてまとめられた推奨事項・指針です。
IAEAは、核医学(ごく微量の放射性同位元素を含む薬を用いて病気の診断・治療を行う)分野で、日本の医大と連携し、人材育成等に関するコンソーシアムも組織しています。
